視覚障害者向けユーザインターフェースに関する研究

−視覚障害者のためのブラウザ用ツールの作成−


目次

  • はじめに
  • コンピュータ使用上の問題点
  • 問題点の解決方法
  • CUIブラウザ用ツールの作成
  • まとめ
  • 参考文献

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    1.はじめに

     最近のコンピュータ使用環境は、文字のみを扱うCUI(Character User Interface)から、画像を扱うことのできるGUI(Graphical User Interface)へと、移り変わってきている。GUIでは、マウスなどのpointing-deviceを使って画像化されたコマンドを実行する。GUIでコマンドを実行するためには、位置情報や画像情報のような視覚に強く依存する情報(視覚情報)を必要とする。このため、視覚障害者がGUI環境を使用することは非常に困難である。
     network環境においても、GUI化は急速に進んでいる。WWW(World Wide Web)上には、HyperTextと呼ばれるリンク情報を与えられた文書が存在する。それらの文書を検索・閲覧する際にはWWWブラウザと呼ばれるシステムを使用する必要がある。このWWWブラウザも、最近はGUIによるシステムが増えてきている。そのため、視覚障害者はnetwork環境の利用も困難になってきている。
     このような状況を改善するために、本研究では視覚障害者によるWWW上の情報の検索、閲覧を支援するWWWブラウザ用ツールを作成した。

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    2.コンピュータ使用上の問題点

    2.1視覚障害者とGUI

     コンピュータのインターフェースがGUIに移行してきている。GUIとは、マウスなどのpointing-deviceを用いて画像化されたコマンドを実行するインターフェースである。視覚障害者はこのようなインターフェースを使用できない。この最大の原因は、位置情報と画像情報の二つの視覚情報の氾濫にある(図1)。

     まず、我々晴眼者が目を閉じたときと同様に、視覚障害者はどこに何があるかという位置情報を認識できない。この位置情報を、視覚以外の感覚で認識できるように変換することは非常に困難である。このため、視覚障害者は位置情報を必要とするマウスなどのpointing-deviceを操作できない。
     画像情報においては、動画やカラー画像のような複雑な画像は、触覚情報への変換が非常に困難である。また白黒画像においても、濃淡が複雑な画像の認識は困難である。このため、視覚障害者は画像化されたコマンドの実行が困難である。
     以上の理由により、視覚障害者は視覚情報を必要とするGUI環境を利用できない。

    2.2視覚障害者とWWWブラウザ

     WWWの急速な発展のために、視覚障害者はWWW上の情報を得ることが困難になってきている。「障害者の情報処理教育の現状と問題」によると、視覚障害者が理解できるHyperTextは全体の14%しかない(図2)。この原因は二つある。
     一つはリンク情報を付加されているHyperTextの存在である。HyperTextには数多くのリンク情報が付加されている。このリンク情報によって、次々に複数のファイルを検索し、閲覧することが可能となる。リンク先へ移動するときは、文章中のリンク情報を持つ文(キーワード)を探し、指定する必要がある。こうしてキーワードを探索する際に位置情報は特に必要となる。つまり、HyperTextの最大の特徴であるリンク情報の付加は、視覚障害者のnetwork環境の利用を妨げることにつながる。

     もう一つは、画像情報の氾濫である。最近では画像を扱えてマウスで操作できるWWWブラウザ(GUIブラウザ)が一般的になってきた。GUIブラウザの開発により、晴眼者は視覚的工夫を凝らしたGUIブラウザ専用のHyperTextのみを作成するようになった。このため、視覚障害者にとって読みづらい、画像ばかりのHyperTextが増えてきている。このようなGUIブラウザ専用のHyperTextはWWW上の画像情報の氾濫を促す。
     以上の理由により、視覚障害者はWWWブラウザを使用することが困難である。

    2.3現在の課題

     WWWブラウザは視覚情報を多く必要とする。このため、視覚障害者にとってWWWブラウザは使いづらいものであるといえる。さらに、GUIブラウザの開発の影響でHyperTextにリンクされる画像が急激に増加してきている。現在視覚障害者がコンピュータを使用する上での課題は、視覚障害者にとって使用が困難なWWWブラウザの改善である。これを解決するためには、視覚情報をどのように視覚障害者に伝えるかを考えなくてはならない(図3)。

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    3.問題点の解決方法

     以上のような問題点を改善するため、我々は視覚情報を必要とせずに視覚障害者がHyperTextを扱えるツールを設計した。具体的には以下のようなものとなる(図4)。

     文章中のキーワードの探索は、位置情報を必要とする。しかし視覚障害者は位置情報を認識できない。このため視覚障害者はキーワードを探索できない。これを改善するために、視覚障害者が文章中のキーワードを探索しなくてすむツールを設計した。具体的には、キーワードだけをファイルにまとめるツールであり。ユーザはこのツールによって作成されたファイルを見ることで、その文章のキーワードを得ることができる。これによりユーザは、文章中のキーワードを探索する必要がなくなる。またこれまで視覚障害者にとって困難であった文章の拾い読みも容易に行えるようになる。
     複雑な画像は視覚以外の感覚では認識できない。これを改善するために、HyperTextにリンクされている画像を説明文に置き換えるツールを設計した。このような画像の説明文は、HyperTextを形成するHTMLファイルに記述できる。HTML(HyperText Markup Language)とは、HyperTextのリンク情報や文字の大きさなどを記述する文書整形のための言語である。画像をHTMLファイルに記述されている説明文と置換することで、視覚障害者は画像情報を直接認識する必要がなくなる。
     しかしほとんどの人は、画像に関する説明文を記述していない。これを改善するために、説明文が存在しない場合要求のメールを自動的に送信するツールを設計した。これによって、説明文のない画像が少なくなることが期待できる。
     以上のようなツールを作成することで、視覚障害者でも現存するWWWブラウザの使用が可能となる。

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    4.CUIブラウザ用ツールの作成

     今回の研究では、現在の視覚障害者のコンピュータ使用環境を改善するために、視覚障害者がWWWブラウザを使ってHyperTextの文章を読むことを支援するツールを作成した(図5)。開発に使用した言語は、文字列処理に最適なPerlである。具体的な機能と期待される効果については、以下の通りである(表1)。

     gettextは、視覚情報の氾濫するHyperTextを文字情報のみのTextFileに変換するツールである。このツールは、HyperTextのリンク情報を記述するためのタグを取り除く作業を行なう。この際、リンクされた画像ファイルはその説明文に置換する。これによって視覚障害者は、HyperTextを文字情報しか出力できない視覚障害者用端末を用いて読めるようになる。
     makelistは、HyperTextのキーワードのみを取り出してリストを作成し、ファイルに出力するツールである。これによって用途別にリンク情報を集めたlinklist、メールアドレスを集めたmaillistなどのリストが作成される。作成されたリストを用いて、太字やリンク先指定などのキーワードをすぐに見つけることができる。つまり、位置情報を認識できない視覚障害者でも文章中のキーワードの探索が容易になるということである。さらにブラウザの本来の目的である拾い読みを、位置情報を必要とせずにより簡単に行えるようにもなる。
     filemoveは、一度見たHyperTextを分類し、容易に検索できるようにファイルの管理を行うツールである。このツールは、HyperTextのファイル名とアドレスのリストを作成する。一度見たHyperTextであれば、作成されたリストを用いて容易に開くこともできる。filemoveを使うと、重要なHyperTextを検索の手間を省いて再び読むことができる。また、不要なHyperTextを検索の際に検索対象から外すことで、他のHyperTextのより速い検索が可能になる。これによって、視覚障害者は困難であったファイルの検索の手間を省くことができる。
     sendmailは、HyperText中の画像に説明文がなかった場合に、その作成者宛に説明文を要求するメールを自動的に発送するツールである。これによって、HyperText作成者に、画像に関する説明文の必要性を知らせることができる。これによって、WWW上に存在するHyperTextにリンクされている画像のすべてに説明文が付くようになることが期待される。
     以上のツールを使用することで、視覚障害者は視覚情報の氾濫するHyperTextの検索、閲覧、管理を容易に行えるようになる。

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    5.まとめ

     本研究では、これまで視覚障害者にとって困難であったWWWブラウザの使用を容易にするツールを作成した。これらのツールを使用すれば、視覚障害者はHyperTextを視覚情報を必要とせずに検索、閲覧できるようになる。これに伴い、これによって、視覚障害者のコンピュータ環境は改善されると考えられる(図6)。
     今回作成したツールは、まだ視覚障害者に使用して頂いていない。このため今後の課題としては、今回作成したツールを実際に視覚障害者に使用して頂くことが挙げられる。こうして視覚障害者にとってより扱いやすいツールを目指すことが必要である。

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    6.参考文献

  • UNIXマガジン10、11号:1995.10月、11月
  • 橋本明浩、丹直利、山口正恒:『障害者の情報処理教育の現状と問題』、1995.10.20
  • 吉村信、家永百合子、鐙聡編著:『インターネットホームページデザイン』:翔泳社、1995
  • 河野真治著:『入門Perl』:アスキー出版局、1994
  • R.L.Schwartz著、近藤嘉雪訳:『初めてのPerl』:ソフトバンク、1995
  • L.Wall, R.L.Schwartz著、近藤嘉雪訳:『Perlプログラミング』:ソフトバンク、1993
  • 中根雅文、高村明義:『視覚障害者向けインタフェース』、1994.10.11
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    木更津工業高等専門学校情報工学科 平成7年度卒業研究抄録 J-14 (吉野伸一、渡辺正利 1996年)